早朝の白谷雲水峡


屋久島のトレッキングツアーの主流は「縄文杉」と「白谷雲水峡」です。
多くの人は何がなんでも「縄文杉」を目指します。縄文杉の樹勢や、22キロの道のりにはそれぞれの思い入れやドラマがあり、人生の中で一度は縄文杉を見に行きたいという、「富士山登山」にもよく似た、日本人の心理に訴えるツアーでもあります。
その屋久島の縄文杉に隠れた伏線の「白谷雲水峡」は、ジブリの「もののけ姫」の映画の舞台という情報が流布したことで、人気が上がりました。ガイドとして「縄文杉」と「白谷雲水峡」の2つをお客様を案内することが多かったのですが、実は「白谷雲水峡」に感動するお客様のほうが多いのです。これを縄文杉にもまだ行っていない人に話すのは申し訳ないのですが・・・。

白谷雲水峡の人気の理由は「もののけ姫」や苔の森の美しさでしょう。映画の中に出てくる様々なシーンが屋久島の風景をデッサンして取り入れているというのは間違いないように思います。10年ほど前まで「もののけ姫の森」という場所が一番の人気でした。これをあるテレビ番組でもののけ姫の森から約50分先の太鼓岩の紹介をした後、劇的に太鼓岩の人気が上がりました。
放送の翌日から、われもわれも太鼓岩へ現象の始まりです。その放映以前太鼓岩まで行く人の割合は現在の1~2割程度ではなかったかと思うのですが、それがほぼ逆転し、太鼓岩7割、もののけの森3割というふうに変化してきました。
縄文杉ツアーの翌日、「太鼓岩に行きたいけれど、体力的に不安だからもののけの森で引き返すことにしました」「飛行機の都合で太鼓岩まで行けない」というお客さんを見るにつれ、朝早く出ればいいだけなのに・・・と早朝出発白谷雲水峡をはじめました。
そのころ早朝の白谷雲水峡ツアーを主催する事業者はほぼ皆無でした。まだ白谷から縄文杉を目指す人も少なく、ゴールデンウィークやシルバーウィークでも、朝5時の白谷駐車場は数台が利用しているにすぎませんでしたが、今では朝の5時でも15台、20台と狭い駐車場の半分が埋まっていることもあります。大手ツアー会社数社も早朝の白谷雲水峡ツアーを始め、早朝は混雑を避けられるということが、SNSで拡散されたのが大きな理由でしょう。私が当初から唱っていた午後からの船や飛行機に間に合うように太鼓岩まで行けるというセールスポイントもいつの間にか横取りされてしまいました。人が多くなったとはいえ、それでも数珠繋ぎというほどではなく、10年前の4,5倍という感じで、駐車場に止められないほどではないです。GWの6時ころには、駐車場の8割以上が埋まるような勢いにはなりましたが・・・

日の出前、ヘッドライトが必要ないくらいの明るさになってから歩き出し、朝日が森の中に差し込んでくる景色の中、ゆっくり行きます。早起きは三文の徳という言葉がぴったりで、静寂な森の中、覚醒するフィトンチットの香りと爽快感、鳥の声、水の流れる音などなど自分たち以外の声も聞こえない早朝の白谷雲水峡は、お客様を連れていって喜んでもらえるので、自分が作った景色でもないのにこちらとしても案内する誇りが持てます。

もし帰路に就く船や飛行機が早い時間だというのなら、4時出発でヘッドライトを点灯しながらでもご案内します。それこそ誰もいない真っ暗な森ですが、太鼓岩につく頃には朝日が昇って感動の朝を迎えることができます。そんな旅の予定にお付き合いいたします。

縄文杉に行くために早起きして、まだ筋肉痛の残る翌日に早起きするなんて・・・という人もいるのですが、トレッキングの翌日は意外に筋肉痛はなく、あったとしても歩いて15分もすると、その痛みも和らぐのに・・・稀に一日中痛い人もいるのですが・・・なんといっても早朝の圧巻の景色は、一見に如かずです。絶対に早朝からのツアーをお勧めいたします。